概要
九州南端から台湾へ連なる琉球列島のうち、鹿児島県と沖縄県の4島5区域に残る亜熱帯性多雨林を保護する自然遺産。大陸からの分離と島ごとの隔離が生んだ遺存固有種・固有種と、世界的な絶滅危惧種の重要な生息地として評価された。
見どころ
やんばるの森を歩くヤンバルクイナ
沖縄島北部だけに生息する飛べない固有鳥。スダジイを中心とする多雨林の林床と、その連続した生息環境を守る重要性を象徴する。
西表島のマングローブとイリオモテヤマネコ
国内最大規模のマングローブ林をもつ西表島は、在来の食肉目イリオモテヤマネコが暮らす世界最小の島でもある。
地理
九州南端から台湾まで約1,200kmに点在する琉球列島のうち、中琉球の奄美大島・徳之島・沖縄島北部と、南琉球の西表島からなる。徳之島が2区域に分かれるため、4島5区域の陸域シリアル・サイトである。登録面積は約42,698ha。黒潮と亜熱帯性高気圧の影響を受ける温暖多湿な気候で、スダジイなどの常緑広葉樹を主体とする亜熱帯性多雨林が広がり、台風の周期的な攪乱と多雨が森林・渓流・生育環境の多様性を高める。
約1,200万年前以降、沖縄トラフの形成に伴って島列がユーラシア大陸から分離し、トカラ海峡や慶良間海裂、黒潮の流入によって陸生生物が島ごとに隔離された。大陸側の近縁種が絶滅した後も残った遺存固有種と独自に種分化した生物が多く、中琉球と南琉球では固有化の型も異なる。この地域は、世界の生物多様性ホットスポットの一つである日本の中でも、中琉球・南琉球を代表する極めて多様性の高い地域である。4島は日本国土の0.5%未満ながら、日本の陸生脊椎動物の約57%、日本固有陸生脊椎動物の44%が生息する。固有種は維管束植物188種、昆虫1,607種に達し、固有種率は陸生哺乳類62%、陸生爬虫類64%、両生類86%、陸水性カニ類100%。登録範囲には国際的絶滅危惧種95種を含む。
奄美大島は80%以上が森林で、アマミトゲネズミ、ルリカケス、アマミイシカワガエルなどが生息する。徳之島は森林と耕作地がほぼ二分するため登録地も2区域となり、トクノシマトゲネズミが固有種である。沖縄島北部のやんばるにはスダジイ林が広がり、飛べないヤンバルクイナ、ノグチゲラ、オキナワトゲネズミが生息する。西表島は約90%が森林で自然植生率が4島中最も高く、国内最大規模のマングローブ林をもつ。4島中唯一、在来の食肉目が生息する島であり、イリオモテヤマネコが生息する世界最小の島である。
歴史
アマミノクロウサギは奄美大島と徳之島だけに分布し、現生ウサギ科で最も原始的な体型と黒褐色の縮れた粗毛をもつ。ルリカケスも両島だけのカラス科の遺存固有種で天然記念物。アマミノクロウサギとケナガネズミは他地域に現生近縁種のいない古い系統で、絶滅が危惧される。西表島だけの天然記念物イリオモテヤマネコは水を嫌わず、潜って魚を捕ることもある。こうした固有種と絶滅危惧種を生息地内で守る価値により、登録基準(x)が認められた。日本では知床に続く2例目の基準(x)であり、日本の自然遺産で唯一、基準(ix)を持たない。
2017年2月に最初の推薦書を提出したが、2018年5月、IUCNは推薦区域の完全性などを理由に記載延期を勧告した。日本政府はいったん推薦を取り下げ、沖縄島北部の米軍訓練場返還地を保護地域へ指定し、境界を見直した。IUCN科学アドバイザーのバスチャン・ベルツキーを現地へ招いて助言を受け、当初含めた基準(ix)を外して再推薦し、2021年に登録基準(x)で登録された。小笠原諸島以来10年ぶり、日本で5番目の自然遺産である。
主な脅威はフイリマングースやノネコなどの侵略的外来種、野生動物の交通事故、希少種の違法採集、観光圧力である。奄美群島・やんばる・西表石垣の3国立公園、森林生態系保護地域、国指定鳥獣保護区、天然記念物などを組み合わせて保護し、人の居住域に近接する緩衝地帯も含めて管理する。
