概要
ヨーロッパ中部から東部の各地に点在する、ヨーロッパブナの原生林・古代林をまとめた国境横断の自然遺産です。世界最大規模のブナ原生地帯であり、最終氷期後に樹種が大陸へ再拡大した生態学的過程を示します。これは生態系や生物群集の発展で現在も続く過程を評価する登録基準(ix)に当たり、2007年に登録されました。
見どころ
倒木から始まる原生林の更新
巨木、立ち枯れ木、苔むした倒木、若木が同じ場所にそろい、人の植林に頼らない森林の世代交代を観察できます。原始のブナ林が希少になった現在、その自然な更新過程自体が大きな価値です。
氷期を越えて広がった森
バルカン地方のレフュジアから約6500年前に再拡大したブナが、山地の斜面を連続して覆います。複数国の森林をひとつの遺産として見ることで、植生の長期的な移動を実感できます。
地理
カルパティア山脈を中心に、ウクライナ、スロバキア、ドイツをはじめヨーロッパ各地の森林が連なるシリアル・プロパティです。総登録面積は約980km²に及び、滑らかな灰色の幹をもつ成木、幼木、立ち枯れ木、倒木が共存する原生的な森林構造を保っています。
最終氷河期には、ヨーロッパブナはバルカン地方のレフュジア(生物が厳しい気候を避けて生き残った退避地)に残りました。そこから約6500年前に再び北方・西方へ分布を広げた過程が、地域の異なる森林群に刻まれています。
歴史
ヨーロッパブナは、かつてヨーロッパの約40%を覆ったとされます。しかし人間による土地利用と伐採が進み、原始の姿を保つブナ林は現在では希少です。
2007年、まずウクライナとスロバキアの原生林群が世界遺産となり、2011年にはドイツの古代ブナ林が加わりました。2017年の拡大時にはウクライナ・スロバキア・ドイツなど12か国(この3か国とほか9か国)の遺産となり、2021年の拡大で現在の18か国へ広がりました。国境を越えて保護される森林群は、樹木の世代交代や植生の拡大という生態系の継続的な過程を伝えています。
