概要
シリア北西部に残る、11〜13世紀の十字軍遠征時代を代表する2つの城塞。聖ヨハネ騎士団の本拠となったクラック・デ・シュヴァリエと、サラディンがわずか2日で攻略したカラット・サラーフ・アッディーンが、軍事建築の発展と価値観の交流を示す。
見どころ
聖ヨハネ騎士団の二重城壁
クラック・デ・シュヴァリエでは、巨大な塔を備えた外壁の奥にさらに高い内城がそびえる。二重の防御線と連続する門から、騎士団が築いた集中型要塞の完成度を読み取れる。
2日で陥落したサラディンの要塞
切り立つ岩の尾根に沿うカラット・サラーフ・アッディーンは、地形そのものを防御へ取り込んだ城。難攻不落に見える城をサラディンが短期間で攻略した歴史が名に刻まれている。
地理
シリア北西部の山地に位置する2つの城塞からなる。クラック・デ・シュヴァリエは丘上に巨大な石造の塔と内外二重の城壁を巡らせ、中心部を外郭が包む集中型の要塞計画を明瞭に残す。
カラット・サラーフ・アッディーンは、急峻な岩の尾根を利用して築かれた城塞である。異なる地形に適応した二つの防御構造を比べることで、十字軍勢力とイスラム勢力が争った地域の軍事的な要衝を立体的に理解できる。
歴史
クラック・デ・シュヴァリエの地には、もともと「クルド人の城」と呼ばれる岩があった。占領した聖ヨハネ騎士団はここを本拠とし、内外二重の城壁をもつ集中型要塞へ改築した。
カラット・サラーフ・アッディーンは12世紀に十字軍が所有していたが、イスラム世界の英雄サラディンがわずか2日で攻略した。この出来事により、「サラディンの要塞」を意味する現在の名で呼ばれるようになった。両城は11〜13世紀の攻防だけでなく、建築技術が勢力間を行き交った歴史も伝える。
2006年、登録基準(ii)(iv)で世界遺産に登録された。(ii)は建築・技術・記念碑・都市計画・景観設計の発展における重要な価値観の交流、(iv)は人類史の代表的段階を示す建築様式や建築技術の顕著な見本を評価する。
シリア内戦による損傷を主因として、2013年に危機遺産リストへ記載された。危機遺産制度は、人の関与で改善でき、大規模な保全作業と条約上の援助を必要とする重大かつ明確な危険に対し、保有国へ保全計画の作成・実行を求め、基金や各国・民間機関からの財政的・技術的援助につなげる仕組みである。急速な破損、公共・民間・都市・観光開発、原因不明の劣化、放棄、武力紛争、火災、地震、地滑り、噴火、洪水、津波などが重大な危機となり、自然遺産では密猟や違法伐採も重大な危険となる。近年は都市開発による景観破壊や、シリア・マリなどの紛争による遺産破壊が問題となっている。
危機は文化遺産・自然遺産ごとに明白な危機と潜在的な危機へ分けて判断される。文化遺産では材料・構造装飾・建築都市計画上の一貫性・空間環境の劣化、真正性や文化的意義の重大な消失が明白な危機となる。法的保護の弱体化、保全政策の欠如、地域・都市計画、武力紛争、気候・地質などの環境要因は潜在的な危機となる。委員会は保有国と協議し、危機リストから外すための望ましい保全状況と改善措置を定め、毎年状態を審議する。顕著な普遍的価値が失われた場合や、推薦時に求められた改善措置が期限内に実施されない場合は、保有国との協議を経て世界遺産リストから抹消される可能性もある。
