概要
東京から南へ約1,000km、30余りの島々からなる自然遺産。大陸と一度も陸続きにならなかった隔離環境で、生物が島・地形・微環境ごとに分化する適応放散が進み、特に陸産貝類は100種超の約95%が固有種である。進化の進行形を観察できる価値により、2011年に登録基準(ix)で登録された。
見どころ
南島・扇池の海食地形
海食洞の天井が崩れて生まれた扇池、白い砂浜、石灰岩のアーチが連なる。固有の陸産貝類と半化石が島の変化を物語る。
進化を映す固有の陸産貝類
100種を超す陸産貝類の約95%が固有種。島や地形だけでなく、葉の表裏ほどの微環境にも適応して分化した姿を観察できる。
地理
世界遺産の範囲は南北約400kmに及び、聟島列島・父島列島・母島列島の3島群、火山列島の北硫黄島・南硫黄島、西之島という5構成要素にまとめられる。これらの陸域と南島周辺など一部海域を含み、登録面積は7,939ha(79.39km²)。一般住民が暮らすのは父島と母島で、両島の集落周辺、硫黄島、沖ノ鳥島、南鳥島は登録範囲に入らない。
小笠原群島は、海洋プレートの沈み込みで生まれた海洋性島弧である。大陸から分離した島ではなく、海底から形成された海洋島であり、ガラパゴス諸島やハワイ諸島のようなホットスポット火山島とも成り立ちが異なる。父島で露出する特殊な火山岩ボニナイトは、海洋プレートの沈み込みが始まった時期の地質過程を示す。
歴史
生物は海流、風、流木、鳥などによって偶然に島へ到達した少数の祖先から始まった。競争相手や捕食者が限られ、島ごと、標高ごと、乾湿や植生ごとに異なる環境へ適応して多様な種へ分かれる現象が適応放散である。小笠原では今もその過程が続き、同じ陸産貝類でも一枚の葉の上面と下面のような細かな生息場所の違いに応じて分化した例がある。
100種を超える陸産貝類の約95%が固有種で、昆虫も約25%が固有種とされる。乾性低木林などへ適応した植物にも高い固有率が見られる。維管束植物とは、水分・養分を運ぶ維管束をもつシダ植物と種子植物の総称で、島内の在来植物群の進化を測る重要な指標である。調査では在来植物441分類群と鳥類195種が記録され、鳥類のうち14種がIUCNレッドリストに掲載されている。
オガサワラオオコウモリは諸島唯一の在来・固有哺乳類で、絶滅が危惧される。オガサワラアオイトトンボなど固有トンボ類はすべてレッドリストに掲載される。南島では、海食洞の天井が落ちてできた扇池と白い砂浜が見られ、絶滅したヒロベソカタマイマイの半化石も残る。
1675年、江戸幕府の船が島を調査し、「此島大日本之内也」と記した標柱を立てた。人が住まない島という意味から無人島(ぶにんじま)と呼ばれ、英語名Bonin Islandsの由来となった。1830年には欧米人5人とハワイ人25人が父島へ入植し、定住が始まった。その後に持ち込まれたヤギ、ブタ、イヌ、ネコなどが固有生態系へ影響を与えた。
現在の主な脅威は、北米原産で固有のチョウやトンボを捕食するグリーンアノール、ノヤギ、クマネズミ、ノネコ、外来樹木アカギである。侵入防止、駆除、島間の拡散防止とともに、父島・母島の暮らしや観光と自然保護を両立させる管理が欠かせない。登録基準(ix)は、海洋島の隔離環境で進む生態・生物学的過程そのものを評価する。
