石積みの段々畑と湧水が守る、パレスチナの生きた農耕景観

オリーヴとワインの土地―バッティールの丘:南エルサレムの文化的景観

Palestine: Land of Olives and Vines – Cultural Landscape of Southern Jerusalem, Battir

乾いた丘を石垣で刻み、湧水を分かち合って野菜を育てる。水の届かない斜面ではブドウとオリーヴが実る。バッティールの美しさは、人々が土地に働きかけ、世代を超えて保ってきた暮らしそのものにあります。

オリーヴとワインの土地―バッティールの丘:南エルサレムの文化的景観のミニチュア

概要

エルサレムの南に位置するバッティールの丘陵には、石を積んだ段々畑と、湧水を共同で配る灌漑水路が広がります。水を引いた区画では野菜を育て、水の届かない土地ではブドウとオリーヴを栽培してきました。自然条件に合わせた土地利用と水管理が、持続可能な農業と独特の景観を生み出しています。分離壁の建設計画によって景観が損なわれる危機が迫ったため、緊急的登録推薦が行われ、2014年に登録基準(iv)(v)で世界遺産に登録されると同時に危機遺産リストへ記載されました。

  • パレスチナ自治区
  • 文化遺産
  • 2014年登録
  • 検定2級

見どころ

バッティールの石積み段々畑を潤す泉と細い灌漑水路

湧水を分け合う灌漑の知恵

泉から延びる細い水路をたどると、限られた水が段々畑へ順番に配られる仕組みが見えてきます。水利の共同管理が農業を支え、住民同士の結びつきまで景観の一部にしている点が見どころです。

オリーヴとブドウが育つバッティールの石積み丘陵テラス

石垣が描く生きた丘陵景観

斜面を幾重にも横切る石積みテラスは、単なる古い遺構ではありません。野菜畑、ブドウ畑、オリーヴ園として現在も使われ、自然に適応しながら発展してきた継続する文化的景観を実感できます。

地理

遺産はパレスチナ自治区、エルサレム南方の山地にあります。石灰岩質の斜面を水平に近づける石積みテラスは土壌と水の流出を抑え、泉から延びる水路が耕地を潤します。灌漑できる低地・段丘と、天水に頼る乾燥地を使い分けることで、野菜、ブドウ、オリーヴという異なる作物を育ててきました。

文化的景観は、自然と人間の共同作業がつくった景観を世界遺産として評価するため1992年に導入された文化遺産の考え方です。計画的に設計された景観、有機的に進化した景観、自然物と信仰・芸術などとの結びつきを重視する関連する景観に大別されます。有機的に進化した景観は、役割を終えた残存する景観と、現在も営みが続く継続する景観に分かれます。バッティールは、暮らしと農業の変化を受け止めながら今も機能する継続する景観として理解できます。単独の記念建造物ではなく、斜面、水、農地、集落、共同管理の仕組みが一体となって価値を形づくります。

オリーヴとワインの土地―バッティールの丘:南エルサレムの文化的景観の風景

歴史

丘陵の住民は長い年月をかけて石垣を積み、湧水を水路へ導き、利用時間を分け合う農業を営んできました。この伝統的な仕組みは限られた水を公平に使い、土壌の浸食を防ぎながら耕作を続ける知恵です。登録基準(iv)は人類史の重要な段階を示す建築・技術の集合や景観の優れた例であること、(v)は文化を特徴づける伝統的集落・土地利用・海洋利用、特に不可逆的な変化に弱い例であることを示します。段々畑と灌漑網は伝統的な農業技術のまとまりであり、外部の開発圧力にさらされた土地利用の代表例でもあります。

2014年、予定されていた分離壁が段々畑を分断し、修復できない損傷を与えるおそれが生じました。危機に直面しながら顕著な普遍的価値をもつ資産は、通常の登録手順の一部を省く緊急的登録推薦を行えます。ただし暫定リストへの掲載は必要で、資産の価値、危機の性質、保全措置を示す推薦書が求められます。バッティールはこの制度により世界遺産と危機遺産へ同時に記載されました。危機遺産リストは、武力紛争、災害、都市・観光開発など重大で明確な危険、または将来現実化しうる潜在的危険にさらされた遺産を国際協力で守る仕組みです。保全計画と望ましい保全状態を定め、毎年状況を審査し、必要なら世界遺産基金などの支援を受けます。価値が失われれば登録抹消に至る可能性もあるため、地域共同体による日常管理と周辺の開発を抑える緩衝地帯が欠かせません。

参考

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