概要
青森県と秋田県にまたがり、東アジア最大級の原生的なブナ天然林を守る自然遺産。最終氷期後の植生変化を示す森には、第三紀周北極植物群に由来する植物と多様な動物が共存し、登録基準(ix)で評価された。
見どころ
果てまで続く原生ブナ林
林冠の大半をブナが占める森が山並みを覆う。氷河期後の多様性と原始性を保つ、白神山地を象徴する景観。
暗門の滝と深い谷
隆起、崩壊、地滑りと多雪の水が刻んだ深い谷と滝。激しい地形変化が森の更新と水循環を支えている。
地理
白神山地は青森県南西部と秋田県北西部に広がる総面積約1,300km²の山地で、世界遺産区域は16,971ha(約170km²)。標高約100〜1,243mに位置し、山地全体のおよそ3分の1を占める。登録範囲は、人為的影響を極力避ける核心地域と、伝統的利用を調整する緩衝地域に分けて管理される。
約250万年前の新生代第四紀初期まで一部は海域だったが、第四紀後期から年約1.3mmという日本列島でも極めて速い隆起が続いた。30度以上の斜面が約6割を占め、崩れやすい地層、多雪による大量の水分、崩壊・地滑りが多数の谷や河川をつくる。隆起と崩落、雪雨が川を通って海へ戻る水循環が独特の地形を育み、地滑り跡には再びブナが根づく。
ブナなどの落葉広葉樹林は約8,000年前に現在の分布域へ達し、8,000〜1万2,000年にわたり続いてきた。林冠の60%以上をブナ一種が占める単一種優占林として東アジア最大級で、第三紀周北極植物群に由来する多様性を保つ。世界のブナは日本のイヌブナを含め11種とされ、ヨーロッパや北米では氷河期に分布と多様性が縮小したのに対し、日本列島は氷河に覆われなかったため多様な植生が残った。日本各地のブナ林が用材・薪炭材の伐採で人工林や二次林へ変わる中、白神山地は人里から遠く急峻で、核心部に林道・歩道・建築物がない高い原始性を維持した。
約500種の植物の中には、1968年に青森県で発見されたナデシコ科の固有種アオモリマンテマがあり、希少な108種は採取や損傷が禁じられている。哺乳類は特別天然記念物ニホンカモシカやツキノワグマなど14種、鳥類は絶滅危惧種クマゲラやイヌワシなど84種が確認され、原生林全体が一つの生態系として機能する。
歴史
白神山地は1993年、日本で最初に登録された世界遺産の一つとして、登録基準(ix)で世界遺産となった。登録以前には青秋林道の建設計画をめぐって住民と自然保護団体の反対運動が起こり、ブナ林の価値を社会が再認識して保護へ進む契機となった。
1995年、環境省、林野庁、青森県、秋田県などが白神山地世界遺産地域連絡会議を設け、複数機関が連携して保全する体制を整えた。2010年からは地元市町村もオブザーバーとして参加し、地域と行政が協力する管理が続いている。
