概要
ベルギー・ブリュッセルに1911年完成した銀行家アドルフ・ストックレーの邸宅。ヨーゼフ・ホフマンがゲザムトクンストヴェルクの理念で建築・庭園・家具・美術を統合し、アール・ヌーヴォーからアール・デコ、モダニズムへの転換点を示した。
見どころ
白い平面と直線がつくる転換点
石の大きな平面、濃い縁取り、直線的な開口、高い塔が、従来の植物的アール・ヌーヴォーとは異なる緊張感を生む。アール・デコとモダニズムを予告する外観が最大の見どころである。
クリムトの装飾が包む総合芸術
食堂ではクリムトのモザイク装飾が壁面、家具、照明、素材と一体化する。建築の器に美術品を置くのではなく、空間全体を一つの作品としてつくるゲザムトクンストヴェルクを体感できる。
地理
ブリュッセルの高級住宅地に、幾何学的な邸宅と庭園が一体となって残る。外観は白い石材の大きな平面、黒っぽい縁取り、直線的な窓、彫刻を載せた高い塔で構成され、曲線的な植物装飾を多用した従来のアール・ヌーヴォーとは異なる厳格な造形を示す。
内部には設計当初の家具や調度が高い完全性で残り、コロマン・モーザーやグスタフ・クリムトらの作品も建築空間の一部として組み込まれた。庭園の軸線まで含め、外部と内部を分けずに設計されたことが重要である。
歴史
銀行家で美術収集家のアドルフ・ストックレーは1905年、ウィーン分離派の中心建築家ヨーゼフ・ホフマンに、美的・予算的制約をほとんど設けず邸宅を依頼した。ホフマンは産業革命がもたらした鉄やセラミックなどの新素材を用い、平面と直線を強調する自由な造形を実現し、邸宅と庭園を1911年に完成させた。
ゼツェッションはドイツ語で「分離」を意味し、セセッションとも呼ばれる19世紀末のドイツ語圏の芸術革新運動である。ここで徹底されたゲザムトクンストヴェルクは、建築、彫刻、絵画、装飾を一つに統合する「総合芸術作品」を指す。直線的な幾何学はアール・ヌーヴォーに革新的な変化をもたらし、アール・デコの先駆けとなるとともにモダニズム建築誕生への道を開いた。
2009年、登録基準(i)(ii)で登録された。(i)は人類の創造的資質を示す傑作で、作者不詳の作品や産業遺産の機能美にも適用される基準、(ii)は建築・技術・都市計画・景観設計の発展における重要な価値観の交流を評価する基準である。ストックレー邸は総合芸術の完成度と、20世紀建築への広い影響の両面で認められた。
