概要
アメリカの建築家フランク・ロイド・ライトが20世紀前半を中心に設計した八つの建築を、六つの州にわたってまとめたシリアル・ノミネーションです。自然の形や原理を設計に取り込み、建物、内部空間、家具、周囲の環境を調和させる「有機的建築」を追求しました。水平性を強調したロビー邸、滝と一体化した落水荘、らせん状のグッゲンハイム美術館など、それぞれ異なる用途と環境への答えを示します。この考え方は近代建築の発展に大きな影響を与え、2019年に登録基準(ii)で世界文化遺産に登録されました。
見どころ
草原へ伸びるロビー邸
低く抑えた屋根、水平に並ぶ窓、深く張り出した軒とバルコニーに注目してください。建物が大地に沿って広がるように見え、プレーリー・スタイルがイリノイの草原景観を建築へ翻訳したことを理解できます。
用途と都市に応えたグッゲンハイム美術館
白い曲面の外観だけでなく、内部を連続して回るらせん状スロープが見どころです。独立した部屋を並べる従来の美術館を超え、移動そのものを鑑賞体験にした設計から、有機的建築の柔軟さが伝わります。
地理
構成資産はアメリカ合衆国の六州に分布し、都市、郊外、草原、森林、砂漠という異なる環境に置かれています。シリアル・ノミネーションとは、地理的に離れた複数の資産を、共通する歴史・文化・機能などのつながりによって一つの世界遺産として登録する方式です。個々の資産が単独ですべての顕著な普遍的価値を備える必要はなく、全体で一つの価値と物語を表します。八作品を見比べることで、一定の様式を複製したのではなく、場所、用途、利用者の要求に応じて有機的建築を展開したことがわかります。
歴史
ライトは建築を機能だけで組み立てるのではなく、人間の感情や生活の質にも応えるべきだと考えました。ル・コルビュジエに代表される機能主義と距離を取り、自然の形態や原理、さらに日本の伝統的な空間構成からも影響を受けながら、内外が連続する独自の建築を発展させます。イリノイ州のロビー邸では、低い屋根、水平に連なる窓、深く張り出す軒やバルコニーによってプレーリー・スタイルを完成させ、広大な草原の水平線を象徴しました。
自邸・仕事場・建築教育の共同体となったタリアセンとタリアセン・ウェストは、設計実験と成果発表の場として繰り返し増改築されました。個人住宅の落水荘では、鉄筋コンクリートの床板を片持ち梁で滝の上へ突き出し、三層の週末住宅を水と岩へ重ねました。ユニティ・テンプルでは宗教空間を革新し、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館では都市の中に連続するらせん状展示空間をつくりました。登録基準(ii)は、ある期間または文化圏で建築、技術、都市計画、景観設計などに重要な価値の交流があったことを示す基準です。八作品はライトの思想が国際的な近代建築へ及ぼした影響を全体として証明し、2019年の登録につながりました。
