蚕の卵から生糸まで、世界を変えた技術革新の連鎖

富岡製糸場とみおかせいしじょうと絹産業遺産群

Tomioka Silk Mill and Related Sites

風を読む蚕室、岩の冷気、長大な繰糸場が一本の糸でつながる。

富岡製糸場と絹産業遺産群のミニチュア

概要

群馬県に残る富岡製糸場・田島弥平旧宅たじまやへいきゅうたく高山社跡たかやましゃあと荒船風穴あらふねふうけつの4資産からなる文化遺産。蚕種の保存、養蚕、技術教育、機械製糸という、原料生産から製糸までの各段階と高品質な生糸の大量生産に必要な全工程を示す。フランスから導入した技術を日本の気候と伝統へ適応させ、さらに東アジアと世界へ広げた交流が評価され、2014年に登録基準(ii)(iv)で登録された。

  • 日本
  • 文化遺産
  • 2014年登録
  • 検定3級
  • 検定2級

見どころ

木製台座上に再現した富岡製糸場の精密ミニチュア

木骨レンガ造の富岡製糸場

1872年操業の官営模範工場。長大なレンガ造建物、瓦屋根、木造トラスの大空間に、日本とフランスの技術が融合する。

木造トラスと繰糸機の列が続く富岡製糸場の繰糸所内部

柱のない長大な繰糸所

木造トラスが支える明るい空間に繰糸機を並べ、均質な生糸を大量生産した。建物と機械がそろって残る、近代製糸の核心部。

地理

4資産は群馬県南西部に分布する。富岡市の富岡製糸場を中心に、伊勢崎市の田島弥平旧宅、藤岡市の高山社跡、下仁田町の荒船風穴が、生糸生産の一連の仕組みを構成する。登録面積は7.2ha、緩衝地帯は414.6ha。

田島弥平旧宅と高山社跡は、温度・湿度・換気を調整して蚕を健康に育てる養蚕技術を示す。荒船風穴は岩の隙間から吹き出す冷風で蚕種を低温保存し、ふ化時期をずらして年に複数回の養蚕を可能にした。富岡製糸場では、その繭を大規模な器械製糸によって均質な生糸へ加工した。

富岡製糸場と絹産業遺産群の風景

歴史

江戸末期の開港後、生糸は日本の主要輸出品となったが、急増する需要に対して品質のばらつきが問題になった。明治政府は殖産興業富国強兵を進め、輸出の柱となる良質な生糸を大量生産する模範工場を計画した。フランス人技師ポール・ブリュナを招き、養蚕地帯、用地、水、燃料に恵まれた富岡を選んだ。

富岡製糸場は1872年、日本初の官営模範器械製糸場として操業を始めた。フランス人オーギュスト・バスチャンの設計を基に、木の軸組へレンガを積む木骨レンガ造、長短を交互に見せるフランドル積み(フランス積み)のレンガ壁、日本瓦と漆喰を組み合わせた。繰糸所は三角形の屋根組みをもつ木造のトラス構造で大空間を支え、内部に柱をほとんど置かず、長い列の繰糸機を収めた。

工女の多くは旧士族の娘で、寄宿舎、診療所、日曜休日など当時として先進的な労働環境が整えられた。彼女たちは機械製糸を学び、帰郷後に各地へ技術を伝えた。製糸場は民営化後も生産を続け、1987年の操業停止まで使われた。主要建物と機械が一体で保存されたことが、近代工場の全体像を伝える価値につながる。

田島弥平は蚕室の屋根に換気用の越屋根を設け、自然の風で温度・湿度を調整する清涼育を1863年頃に確立した。1872年に『養蚕新論』を著して技術を広めた。旧宅は住居と養蚕空間を兼ねる建築そのものが技術書となっている。

高山長五郎は火で室温を上げる方法と換気を組み合わせ、温度・湿度を管理する清温育を確立した。1884年に高山社を設立して養蚕教育を体系化し、日本だけでなく中国・朝鮮半島からも学ぶ人を受け入れ、受講した生徒は延べ2万人以上に達した。ここから標準的な養蚕技術が広域へ普及した。

荒船風穴は岩塊の隙間から夏も吹き出す冷風を利用した国内最大規模の蚕種貯蔵施設である。蚕種を冷蔵してふ化の時期を調整することで、春だけだった養蚕を複数回行えるようにし、製糸場へ安定して繭を供給した。

19世紀後半から20世紀にかけたこの技術連鎖により、日本は1909年に生糸輸出量で世界一となり、1930年代には世界市場の約80%を占めた。安価で高品質な絹が広く流通して絹消費の大衆化が進み、絹の衣服は限られた階層だけのものではなくなった。西洋の器械技術は日本で改良され、さらに東アジアへ伝わって、世界の服飾と生活文化にも影響した。登録基準(ii)はこの国際的技術交流、(iv)は近代的な生糸大量生産システムを示す施設群を評価する。英国のダーウェント峡谷の工場群が綿の紡績を示すのに対し、富岡は繭から生糸を引く製糸を示す点も重要である。

参考

  • UNESCOTomioka Silk Mill and Related Sites
  • 書籍『すべてがわかる世界遺産1500 上』(発行:世界遺産アカデミー/世界遺産検定事務局、発売:マイナビ出版)
  • 書籍『くわしく学ぶ世界遺産300〈第5版〉』(発行:世界遺産アカデミー/世界遺産検定事務局、発売:マイナビ出版)
  • 書籍『きほんを学ぶ世界遺産100〈第4版〉』(発行:世界遺産アカデミー/世界遺産検定事務局、発売:マイナビ出版)

公開日: 最終更新: