概要
鹿児島県の南方海上に浮かぶ屋久島の約5分の1を占める自然遺産。原生的な温帯雨林、黒潮と大きな標高差が生む植生の垂直分布、古いヤクスギ、豊かな固有亜種を抱え、日本の自然遺産で唯一、自然美の登録基準(vii)も認められている。
見どころ
花崗岩に根を張る縄文杉
樹齢2,000年を超すともされる代表的なヤクスギ。栄養の乏しい花崗岩地盤と多雨の環境でゆっくり育ち、緻密な年輪と多量の樹脂を蓄える。
森から直接海へ落ちる大川の滝
世界遺産区域に含まれる屋久島最大級の滝。豊富な雨を集めた水が花崗岩の断崖を一気に落ち、山岳島ならではの激しい水循環を見せる。
地理
屋久島は九州最南端から南へ約70km、花崗岩の隆起で生まれた面積約500km²の島である。東京23区ほどの島に標高1,000mを超す山々が連なり、「洋上のアルプス」と呼ばれる。島西部の海岸から、九州最高峰の宮之浦岳(標高1,936m)を含む山岳部まで約107km²が登録範囲に入る。黒潮が運ぶ湿った空気が山地で上昇するため「月に35日雨が降る」と例えられるほど雨が多く、中央高地では年降水量が8,000mmを超えることもある。
海岸のトベラ、ウバメガシ、アコウ、ガジュマルから、スダジイ、イスノキ、タブノキ、アカガシ、ウラジロガシ、ヤクタネゴヨウの照葉樹林、スギ・ツガ・モミの温帯林、標高1,800m超のヤクシマダケ、ミヤマビャクシン、ヤクシマシャクナゲの草原帯まで、日本列島南北約2,000kmに相当する植生が垂直に連なる。約1,900種・亜種を数える豊かな植物相を持ち、標高約1,600mにはミズゴケやコケスミレが生育する日本最南端の高層湿原もある。栄養分の少ない花崗岩地盤と多雨環境ではスギの成長が遅く、年輪が緻密になるうえ、樹脂の防菌・抗菌・防虫作用によって腐りにくい長寿の木となる。樹齢1,000年以上をヤクスギ、1,000年未満をコスギ、江戸期の伐採材を土埋木と呼び、縄文杉は2,000年を超すともされる。
屋久島は旧北区と東洋区の接点にあり、約1万5,000年前の氷期終了後に九州から隔離されたヤクシカ、ヤクザル、ヤクシマアカコッコなどの固有亜種が生息する。登録区域には西部林道、大川の滝、縄文杉、大王杉、紀元杉、蛇之口滝、千尋滝、トローキ滝周辺などが含まれる。
歴史
氷期の終わりに海面が上昇すると、九州側の生物から隔離された個体群が島の環境に適応してきた。17世紀には泊如竹が島津光久にヤクスギ利用を進言し、木は屋根材の平木へ加工されて年貢として納められた。伐採跡から芽生えた森と、切り残された巨木が、利用と再生の歴史を同じ景観の中に刻んでいる。
1921年、国は島民の暮らしへの配慮を盛り込んだ屋久島国有林経営大綱を定め、後に「屋久島憲法」と呼ばれた。20世紀には伐採が進む一方、天然記念物、国立公園、生物圏保存地域などの指定も重なり、1980年代には天然林伐採が止められた。1993年、白神山地とともに日本で最初の自然遺産として世界遺産一覧表に登録された。
