夜道でついてくる、姿なき足音
べとべとさん
共歩き
振り返っても、誰もいない。それでも足音はやまない。ぴた、ぴた、と背中のうしろで。道の端に寄って、そっと声をかけてやればいい。べとべとさん、お先にどうぞ。ほら、足音が、先へ行った。
Overview
べとべとさんは、夜道を一人で歩く人の後をついてくるとされる妖怪。姿は見えず、ついてくる足音と気配だけの存在である。振り返っても何もおらず、害を加えることはない。道の片側に寄って「べとべとさん、お先にお越し」と唱えると、足音がやんで先へ行くという。奈良県宇陀郡の伝承を柳田國男が紹介した。
Encounter
夜道を一人で歩いていると、後ろから誰かがついてくるような足音を覚える。振り返っても何もいない。怖さをこらえて進むと足音は止まず、冷や汗が出て胸が高鳴る。奈良県宇陀郡では暗い夜道で、静岡県では小山を降りてくるときに遭うとされ、道の片脇に寄って先を譲る言葉をかけると足音は去っていく。
Lore
柳田國男が「妖怪名彙」(のち『妖怪談義』所収)で、大和の宇陀郡の伝承として紹介した。現代広く知られる絵姿は水木しげるが描いたもので、水木自身が幼少期にこの妖怪らしきものに遭遇したと語る。奈良県のほか静岡県にも同種の伝承が伝わる。
Traits
姿を持たず、夜道を行く人の背後にぴたぴたと足音だけをともなって付き従う。人を襲うことも害することもなく、ただついてくる。歩けば足音がつづき、止まれば足音も止む。道の片側へ寄り「お先にお越し」と先を譲る言葉をかけられると、素直に先へ行き、足音は消える。
大和の宇陀郡で、独り道を行くとき、ふと後から誰かがつけて来るやうな足音を覚えることがある。其時は道の片脇へ寄つて、「ベトベトさん、さきへおこし」といふと、足音がしなくなる。
柳田國男『妖怪談義』