死の間際に抜け出す遊離魂
アマビト
あま人 / 遊離魂 / 生霊
和尚は茶をすすめ、世間話をした。帰り際の様子が妙で小僧に追わせると、町の角で姿は消えた。その人は病の床から一歩も出ていない。飲まれたはずの茶は、畳の敷合せに、すべてこぼれていた。
Overview
アマビト(あま人)は、青森県西津軽地方に伝わる怪異で、人が死ぬ直前にその魂だけが体から抜け出して歩き回る現象をいう。近所の建築現場へ出かけて作業を手伝うような物音を立てたり、家の戸を開けるような音を立てて帰ったりする。死者の霊ではなく、まだ生きている人間の遊離魂・生霊の一種として語られる。
Encounter
死の間際にある病人の魂が、本人が寝込んでいる間に抜け出して現れる。近所の普請の地固めを手伝う音を立てたり、逢いたい人のもとや菩提寺を訪ねたりする。目撃された時刻は決まって本人が息を引き取る前後で、見た者は生前と変わらぬ姿に挨拶されるが、あとで本人がその日に亡くなっていたと知る。
Lore
国際日本文化研究センターの怪異・妖怪伝承データベースが青森県の事例として収録し、『宮城縣史 民俗3』(1956年)に「人が死ぬ前にその魂が歩く」霊としてアマビトの名を記す。死際に魂が知人を訪う離魂譚は各地にあり、柳田國男『遠野物語』(1910年)第八六〜八八話にも同種の話が伝わる。
Traits
生きた人の体から抜け出た魂が、本人の姿のまま活動する遊離魂。建築現場での作業を手伝ったり戸を開けたりと生前の所作をなぞるが、勧められた茶は飲まず畳にこぼれているなど、実体を欠く。害意はなく、遭った者もあまり恐ろしいとは感じない。死者の霊とは違う、死の直前という一瞬にだけ現れる魂とされる。
後に寺にては茶は飲みたりや否やと茶椀を置きし処を改めしに、畳の敷合せへ皆こぼしてありたり。
遠野物語