山道で人を飢えさせる憑き物
ダラシ
ダラシ / だらし / ヒダル神 / 餓鬼憑き
峠にはいつも、拾われなかった飢えが待っている。ひとくちの飯があれば越えられる坂を、握り飯を忘れた者だけがついに越えられない。倒れた男の腹の底で鳴っているのは、百年前に飢えて死んだ誰かの、まだ満たされぬ腹の音だ。
Overview
ダラシは、西日本に広く伝わるヒダル神(餓鬼憑き)の、長崎県から北九州一帯での呼称。山道で人に取り憑き、突然の激しい空腹感と疲労で一歩も歩けなくさせる憑き物とされる。飯を一粒でも口にすれば回復し、放っておくと命を落とすこともあると語られた。餓死した旅人の霊が化けたものといわれる。
Encounter
長崎県南高来郡、温泉山(雲仙)の山道で憑くという。ある学生が夏休みに帰省する山越えの途中、平石越の坂あたりでにわかに激しい空腹感に襲われ、手足がしびれて一歩も前に進めなくなった。そこへ通りかかった者が握り飯を分け与えると、ようやく落ち着きを取り戻し、命拾いをして峠を越えたと伝わる。
Lore
ダラシは西日本のヒダル神信仰の一系統で、長崎県雲仙一帯での呼び名。田中田士英「ダラシのついた話」(『土の鈴』通巻4号、1920年)は、平石越のノトンの坂で昔に餓死した旅人の霊が通行人に憑くと記す。關敬吾「『だらし』につけられる話」(『旅と伝説』1934年)にも雲仙の同様の話が採録される。
Traits
温泉山の坂道にひそみ、握り飯を持たずに通りかかった者へ音もなく取り憑く。憑かれた者は突如として腹の底から飢えを覚え、手足がしびれ、その場に倒れ込んで動けなくなる。飯を一粒でも与えれば力が戻るが、誰も通らなければそのまま朽ちる。坂を越える者は飯をひとつ食べ、残りを藪へ投げてこれをなだめたという。