病を運ぶ死霊の風
ハカゼ
その風は、真冬でもぬるい。頬を撫でて過ぎたあと、名も知らぬ誰かの熱が、あなたの体で燃えはじめる。箕を逆さに、三度唱えよ。ハカゼ落し、ハカゼ落し、ハカゼ落し。
Overview
ハカゼは、高知県の幡多郡や中村市に伝わる死霊の風。これに「うたれる」と急に高熱を出し、人も家畜も病み、時には命を落とすという。非業の死を遂げた武士や溺死者、山や川で凍え死んだ者の霊がなるとされ、四国で広く語られる憑き物ミサキの一種に数えられる。
Encounter
川のほとり、山際の道、人の死んだ場所のそばを、季節に合わぬ生暖かい風が撫でていくときに当たる。心当たりもなく夜半から高熱が出て、いったん下がってもまた上がる。幡多郡三原村では、うたれたら家に入る前に箕を逆さにし、「ハカゼ落し」と三度唱えて、風を戸口で振り落とした。
Lore
高知県で「ハカゼにうてる」といえば急な発熱を指す。中央大学民俗研究会「高知県幡多郡三原村調査報告書」(『常民』3号、1964年)は、ハカゼを生暖かい風、冬に山や川で凍え死んだ者の霊とし、箕を逆さにして唱える「ハカゼ落し」の呪法を記録する。四国の憑き物ミサキが風を伴うとされる伝承の系統に位置づけられる。
Traits
形はなく、生暖かい一陣の風としてのみ現れる。当たった者の体へ熱を移し、そのまま憑いて離れない。弔われぬ死霊が風になるため、川辺を歩く者や、それと知らず遺骨のそばに寝た者が憑かれやすい。故人との血縁は関わりがない。社で祓いを受ければ、熱は間もなく下がるという。