峠を転がり越えて先回りする、藁打ち槌の妖怪
土転び
振り向くな、走るな。息を切らして峠を下りきった頃には、藁打ち槌はもう先に着いて、道の真ん中でおまえを待っている。
Overview
中部地方の峠道に伝わる妖怪。藁打ち槌に似た丸い姿で山道を転がり、走り出した旅人にぴたりと並んで追い抜いていく。人に危害を加えたという話は伝わっておらず、旅人を正しい道につなぎとめる峠の神ともいわれるが、由来を示す古い記録は乏しい。
Encounter
夕暮れ時、人影の絶えた峠道を一人で歩いていると、後ろから何かに追われているような気配がするという。思わず駆け出すと、藁打ち槌そっくりの土転びが足もとをごろごろと転がり抜けていき、峠を下りきった辺りでじっと立ち止まって待っている。
Lore
槌が転がり寄って旅人を追う話は中部地方に限らず、高知の「たてくりかえし」、岡山の「てんころころばし」など各地に類話があり、江戸期の百科事典『和漢三才図会』にも似た「野槌蛇」の記述がある。鳥取県小鹿村(現・三朝町)に伝わる同名の土転びは、槌に似た蛇が足もとに転がり寄って噛みつくとする、姿も行動も異なる伝承として記録されている。
Traits
丸太のように太い胴を路面に転がして移動し、走り出した人に並んで追い抜くほどの俊足を見せる。噛みつく、締め付けるといった直接攻撃の記録はなく、峠の下り口で通行人の様子をうかがうように待つだけで、無理に道を阻むこともないとされる。