水辺を舞い、見た者を病ませる川天狗の怪火
天狗火
天狗火 / てんぐび
山の端にぽつりと灯った提灯が、ふいに二つ、四つ、やがて数百に散って川面を舞う。美しい、と見上げたが最後、その熱は骨の髄まで忍び込む。だから漁師は今も、頭に草履を乗せて足早に帰る。
Overview
神奈川・山梨・静岡・愛知に伝わる怪火。水辺に現れる赤みを帯びた炎で、夜ごと山から川へ降りて魚を捕る川天狗の仕業とされる。見た者は必ず病むといい、遠州では提灯ほどの火が数百に分裂して宙を舞う。
Encounter
夜、海辺や川辺、山ぎわに音もなく現れる。遠州では山から提灯ほどの火が下り、いくつにも分かれて水面の上を舞った。人々はこの火を恐れ、地にひれ伏して目に入れぬようにするか、頭に草履や草鞋を乗せてやり過ごしたという。
Lore
東海一帯では、この火を、川天狗が夜ごと山から川へ下って魚を捕る『天狗の漁撈』『天狗の釣り』と呼んだ。御前崎に現れるものは遠州七不思議の一つに数えられる。一方、愛知の豊明には、田の水口を明るく照らして悪事を防いだとする、良い火の異伝も残る。
Traits
一つの炎が数百に分かれ、また一つに合わさりながら、水辺を漁るように移ろってゆく。人に直接襲いかかりはしないが、その姿を目にした者には病が取り憑くとされ、見ないことだけが唯一の備えとなる。