叩けば数百に増える執念の怪火
小右衛門火
小右衛門火 / こえもんび
正体を暴いてやろう、と杖を振り上げたのが間違いだった。ひと打ちごとに火は裂け、二つが四つ、四つが百と、闇に燃える環となって男を呑む。逃げ帰った床で燃えたのは、体の芯の熱。――火は、名だけを残して男を連れていった。
Overview
提灯ほどの大きさの火の玉で、雨の夜、川の堤に地上三尺ほどの高さで浮かび、墓地の間を飛び交ったという大和の怪火。杖で打つと数百に分裂して人を取り囲み、熱病で死に至らしめる恐ろしい火として語られる。
Encounter
雨の降る晩、松塚村あたりの堤に出る。ふわりと宙に浮いた火が、四キロにも及ぶ闇の道を、墓地から墓地へと縫うように飛び交う。近づいて杖などで打ちかかろうものなら、火はひとつが数百に割れて、たちまち人を取り囲む。
Lore
怪火の正体を見極めようと堤へ出向いた男が、飛来した火を杖で叩いたところ、火は数百に分かれて彼を取り囲んだ。命からがら逃げ帰った男はその夜のうちに熱病を発し、手当ての甲斐もなく息絶えた。以来この火は、彼の名を採って小右衛門火と呼ばれる。
Traits
ひとつの火に見えて、刺激を与えれば無数に分かれ、相手を包み込む。触れ、あるいは打ちかかった者は高い熱に冒され、命を落とすとされる。近江には、悪事を暴かれ死罪となった強欲な庄屋の怨みが火となり、その中に青い顔を浮かべたという異説も伝わる。