針の毛を逆立てる、山棲みの獣

山嵐

山荒 / やまあらし / シイ / 箭猪 / 豪猪

「牛はなぜ、あの藪だけ避けて通る」。老いた牛飼いは笑って「シイシイ」と囃した。藪の奥で無数の棘がざわりと逆立つ音に、牛は一目散に前へ駆けだす。恐れとは、こうして荷を運ぶ力にも変わるものらしい。

山嵐 figure art

Danger and Rarity

C
戦闘力

驚かせ、転ばせる程度。命までは取らない。

D
敵対性

人への害意はなく、時に福さえもたらす。

B
稀少性

各地に類話はあるが、遭うには条件がいる。

Overview

山嵐は、江戸期の妖怪絵巻に描かれる、全身を棘状の毛に覆われた獣の妖怪。名は齧歯類のヤマアラシ(漢名で豪猪・箭猪)に通じ、鋭い針状の毛を逆立てて身を守る獣の姿と結び付けられた。深山にすむとされ、姿の不気味さから山の怪の一つに数えられてきた。

Encounter

深い山中で、藪の奥に黒々とした獣のうずくまる影を見たなら、それが山嵐かもしれない。近づけば全身の毛をびりびりと逆立て、針の林のように身構える。牛はこの姿をことのほか恐れ、和歌山や広島では牛飼いが「シイシイ」と声をかけ、後ろの獣を怖がる牛を先へ先へと進ませたという。

Lore

熊本・松井文庫の『百鬼夜行絵巻』などには、棘状の突起で全身を覆われた獣の姿で描かれるが、絵に解説はなく由来は判然としない。奈良県吉野郡では、山中で木を伐る音を立てる怪物として伝わる。漢名を箭猪ともいう獣のヤマアラシと同一視され、その針毛を武器とする性質が妖怪の像に重ねられた。

Traits

背と脇腹に生える長く鋭い針状の毛を武器とし、外敵が迫ると尾を鳴らして威嚇し、毛を立てて後ろ向きに突進して相手に突き刺す。古くはこの針を矢のように射かけると信じられ、「箭猪」の名もそこに由来する。針や肉、胃は漢方で薬に用いられ、その毛皮は身近な道具にも重宝された。

山嵐 cover image