血をすすり病をもたらす、古い虫
恙虫
恙なきや——その挨拶の裏で、闇にひそむ小さな虫が今宵も血を求める。
Overview
人を刺して血を吸い、病に至らしめるとされた虫の妖怪。古くは石見国に現れ、夜ごと人家を襲ったと伝わる。「恙(つつが)」は病や災いを指す語で、無事を願う「つつがない」の語源ともされる。禍そのものが小さな虫の形をとった存在である。
Encounter
日が落ちてから人家に忍び込み、眠る者の肌に取りついて生き血をすする。刺された者はやがて高熱を発して床につき、多くは癒えぬまま命を落としたという。夜這う小さな影は、姿を見せぬまま病だけを残していった。
Lore
飛鳥時代、石見国(島根県)で恙虫が人を刺し殺したため、天皇の命を受けた陰陽博士が退治したと伝わる。刺されれば血を吸われて病み、恙なく過ごせぬことから、この虫の名は災いの代名詞となった。江戸期の『絵本百物語』はこの古い虫を妖怪として描いている。
Traits
小さな虫でありながら、その一刺しが人を死に追いやる。姿は目立たず、狙うのはもっぱら寝入った人の血で、噛まれた痕から熱が全身に回っていく。後年その正体は野に潜むダニの一種と分かり、妖怪の名がそのまま実在の病名「ツツガムシ病」へ受け継がれた。