月から手招きし、見入る者の寿命を縮める
桂男
更けた夜、満ちきらぬ月がやけに美しい。見上げるうち、桂の影から白い手がゆらりと伸びて、こちらを招く。もう少し、もう少しと見つめた分だけ、その人に残された日は、確かに短くなっていく。
Overview
月に棲むとされる妖怪。満ちきらぬ月を長いあいだ見つめていると、月の中から手招きをし、招きに応じた者は寿命が縮む、あるいは命を落とすと伝えられる。月の桂を永遠に伐り続ける男という中国の伝説に由来し、江戸後期の『絵本百物語』にも取り上げられた。
Encounter
現れるのは夜空にかかる月の中。とりわけ満ちきらぬ月を、我を忘れて長く見上げているときに危うい。ぼんやりと浮かぶ人影がこちらへ手を差し伸べ、招くように動く。紀伊の那智勝浦のあたりでは、こうして月を見過ぎることを固く戒めたという。
Lore
中国では、罪を得た呉剛という男が月の桂の大木を永遠に伐り続けるという『酉陽雑俎』の説話が古くから伝わる。これが日本に入り、月を長く見る者を桂男が手招きして命を縮めると語られるようになった。夜ふけに月を仰ぎすぎることへの戒めが、その招きの言い伝えの底にうかがえる。
Traits
月光の差すあいだだけ、月の桂のかたわらに立つとされる。地上から月を見つめ続ける者を見つけると手招きをし、応じて見入るほどに相手の寿命を吸い取っていく。人を襲って回るのではなく、月に見惚れるという人の側の隙に忍び入る、静かに害をなす性質を持つ。