怨みが織り上げた、夫を探す蛇
機尋(はたひろ)
織りかけの布が、ひとりでに畳を滑っていく。追ってはいけない。それは、あなたを恨む誰かが、あなたを探しに放った念だから。
Overview
帰らぬ夫を恨みながら女が織った布が、その怨念を吸って蛇と化したもの。読みは「はたひろ」。鳥山石燕が『今昔百鬼拾遺』に描いた妖怪で、機(はた)から生まれ、夫の行方を求めてどこまでも這い進むとされる。
Encounter
織り手の膝から滑り落ちた一筋の布が、いつしか鎌首をもたげて座敷を抜け出す。姿を見るのは、夫が逃げていったその道の上。人の足では追えぬ距離も、うねうねと地を這って越えていくという。
Lore
石燕の解説によれば、外へ出たまま帰らぬ夫を恨みつつ機を織る女があり、その怨みの念が織りかけの布にこもって蛇と化し、夫の行方を探しに這い出るのが機尋であるという。布が蛇となった口碑は確かめられず、機織りと水神の蛇を結ぶ各地の淵の伝説が背景にうかがえる。
Traits
織物でありながら生き物のごとくうねり、ただ一人、恨みの相手たる夫だけを目指して進む。人を無差別に襲うためではなく、逃げた者を捜し当てるために生まれた、執念そのものの蛇である。邪心(じゃしん)が蛇身(じゃしん)へ転じたという語呂に、その本質がよく表れている。