神の手を挟んで沈める大貝

比良夫貝(ひらぶがい)

ひらぶがい / 比良夫貝

海に手を差し入れるな。砂に伏せた二枚の殻は、かつて神の指をくわえたまま、今も静かに潮の満ちるのを待っている。

比良夫貝(ひらぶがい) figure art

Danger and Rarity

B
戦闘力

条件がそろえば、人の命にも関わる。

C
敵対性

脅かし惑わせはするが、深追いはしない。

S
稀少性

ただ一体、一度きりの怪異として語られる。

Overview

比良夫貝は『古事記』上巻に見える巨大な貝。国つ神の猿田毘古神が伊勢の阿邪訶の海で漁をしていたとき、その手をこの貝に挟まれ、海へ沈んで溺れ死んだと伝わる。正体はツキヒガイやタイラギとする説があるが定まらず、大きな二枚貝が人の手を捕らえる姿に、神の最期が重ねられている。

Encounter

現れるのは伊勢の阿邪訶、いまの松阪市北部の海辺である。腰まで潮に浸かって獲物を探し、海底へ手を差し伸べたその時、砂にひそむ二枚の殻がふいに閉じ、指をとらえて放さない。潮が満ちるにつれ、挟まれた者は身を起こすこともできぬまま、静かに水面の下へ引き込まれていく。

Lore

この怪異は『古事記』上巻に記される。手を挟まれた猿田毘古神が海に沈むとき底度久御魂、吐く息の泡が昇るとき都夫多都御魂、泡が水面で弾けるとき阿和佐久御魂という三柱の神が生まれたと伝える。貝の正体は古来定まらず、本居宣長『古事記伝』は平貝、すなわちタイラギかと推した。

Traits

砂底に身を伏せ、二枚の殻を大きく開いて獲物を待つ。近づいた手足を挟み込むと万力のように閉じ、どんな力でも引き剥がせない。自ら泳ぎ寄って襲うのではなく、海へ入る者がみずから触れるのを待つ受け身の怪でありながら、その一挟みは、屈強な神さえ溺れさせるほどに強い。

比良夫貝(ひらぶがい) cover image