不幸の家の門口で泣き、涙を誘う老婆
泣き婆
門口に、見知らぬ老婆がうずくまって泣いている。つられて、こちらの頬にも涙が伝う。三たび、四たびと婆が来れば——その家の者は、じきに喪服を用意することになるという。
Overview
泣き婆は、遠州見附宿(現在の静岡県磐田市)に現れたと伝わる老婆の妖怪で、夜泣き婆とも呼ばれる。近く不幸が起こる家の門口に立って泣くとされ、その泣き声につられて人々も涙をこぼす。これが幾度か繰り返されると、その家には必ず凶事が訪れると語られた。
Encounter
東海道の宿場・見附宿で、近く凶事のきざす家の門口に、夜、この老婆はうずくまる。声をあげて泣きはじめると、通りかかった者も家の者も、わけの分からぬまま涙を誘われてしまう。どこから来て、いつ去るのかは、誰も知らない。
Lore
夜泣き婆の名は、与謝蕪村の筆になる『蕪村妖怪絵巻』に「遠州見つけの宿 夜泣きばばあ」として見え、これが古い記録とされる。葬いの場で遺族ならぬ者が喪主のように泣きたて、参列者の涙を誘う「泣き女」の習俗と重ねて語られることもあり、その系譜に位置づける見方がある。
Traits
老いた女の姿で現れ、ただ声をあげて泣くほかに、これといった動きはない。だがその涙は不思議と人にうつり、聞く者みなを泣かせずにはおかない。害をふるうわけではなく、災いそのものを運ぶのか、来たるべき不幸を先んじて告げているのか——正体は判じがたい。憂いある家をどこからともなく嗅ぎつけて訪れる。