赤子を抱き、漁師の蓄えを平らげる磯の女
海女房
腕の赤子をあやしながら、女は片手で漬物石を持ち上げる。桶いっぱいの塩鯖が、みるみる消えていく。――帰ってこなくてよかった。あの女、去り際にこう言い残したのだから。「爺さんも、食べたかったねえ」と。
Overview
海女房は、島根県の出雲地方に伝わる女の妖怪で、磯女の類とされる。赤ん坊を抱いた姿で海辺の家に現れ、蓄えられた魚をひそかに平らげてしまうという。出雲の海に語り継がれてきた、家の食料をおびやかす女の怪である。
Encounter
出雲の海辺の漁村にあらわれる。家人が漁や用事で出払い、家が手薄になった時分を狙って、戸口や窓から忍び込む。蓄えの魚が桶ごと空になっていたら、それはこの妖怪が赤子を連れて上がり込んだしるしだと語られた。
Lore
十六島に伝わる話。ある漁師の家で老人が留守番をしていると、窓の外から怪しい眼がのぞいていた。やがて赤子を抱いた海女房が入ってきて、片手で赤子を抱いたまま、もう片方の手で鯖の塩漬けの桶の重石を軽々と持ち上げ、赤子とともに塩漬けを食べ尽くした。そして去り際、留守番の老人を食べたかったと言い残して消えたという。
Traits
その正体は人ならぬもので、膂力は人間ばなれしている。塩漬けの魚を好んで大量に食らい、隙あらば人にも牙を向けるという。人の言葉を話すものもいるとされ、鱗と鰭をもつ太った魚のような姿で語り伝えられることもある。