母に化けて牙をむく狼の妖
狼の霊
木の上へ逃げれば安心か。狼は肩を貸し合い、天へ梯子をかける。届かぬなら――家で寝ている『母』を、呼べばよい。
Overview
死んだ母親になりすまして弥三郎という男を襲おうとした狼。鉈で切り落とされた腕を奪い返して逃走した。
Encounter
弥彦山の麓で、弥三郎という男が山中で狼の大群に囲まれ、一本の大木へ逃げ登った。狼たちは肩の上に肩を重ね、梯子のように積み上がって梢の男へ迫る。あと一歩というところで、群れの頂に立つ一匹が天へ向かい、『弥三郎の婆を呼べ』と高く吠えた。
Lore
切り落とした腕を持ち帰った弥三郎の家では、母が布団をかぶって唸っていた。腕を見せると母は『これは私の腕だ』と叫び、肩から血を流して逃げ去る。その正体は鬼婆で、本物の母はすでに食われていたという。老婆に化けた者が狼を率いる筋は『千疋狼』として、新潟のほか山形・福島にも伝わる。
Traits
狼の群れは互いに肩車を組み、木の上の獲物にも届く高さまで生きた梯子を築く。頂の一匹の呼び声に応じて黒雲が湧き、その中から毛むくじゃらの腕が伸びて人をつかむ。腕を斬り落とされてもなお、化けた老婆となって取り返しに現れる執念深さを持ち、正体を見破られると血を流して逃げ去る。