夜空を舞う古き石塔の怪火
石塔飛行
義政公の御代より、誰にも弔われぬまま田に伏していた。だから夜ごと光をまとって飛ぶのだ——拾いあげ、念仏の一つも唱えてやれば、石はもう静かに眠る。
Overview
夜ごと火の玉となって宙を飛び交い、やがて田の中へ落ちた古い石塔。武蔵国本郷村(現・中野)の丘に現れた怪異で、供養もされず放置された室町期の石塔が光をまとったものと語られる。なぜ石が飛ぶのか、その理はついに知られなかった。
Encounter
本郷村の田圃の東にある小高い丘で、夜になると大きな火の玉が現れて飛び交った。村人はその一帯を恐れ、日が暮れると近寄らなかったという。深夜、丘の木立からぬっと光が湧き出し、宙をさまよっては田のほうへ静かに降りてくる。
Lore
『怪談老の杖』巻之一「石塔の飛行」は、本郷村の道心者・西心の話として伝える。若者らと夜通し丘を見張ると、九つ刻に木から大きな火の玉が現れた。西心が筍笠で叩き伏せたところ、田に落ちたのは足利義政の頃の年号を刻む古い石塔で、彼はこれを庵に運び念仏を唱えたという。
Traits
打ち捨てられた古い石塔が、夜ごと提灯ほどの火の玉と化して宙を舞う。田や丘の上を飛び交うが人を襲うことはなく、笠などで叩き落とせば元の苔むした石に戻る。庵に運んで供養し安置すれば、二度と飛ぶことはないと伝わる。