紀州に伝わる天狗攫いの主
空神
くうしん / そらがみ / 空神様
『背に乗れ』——その一言に応じた者は、雲を蹴って西へ飛ぶ。三日の後、草叢で目を覚まし、空を仰いでは口をつぐむ。見えぬ主の名を、決して語らぬために。
Overview
空神は紀州(和歌山県)に伝わる天狗の一種。山伏のような姿で人を背に乗せ、自在に空を飛んで遠方へ連れ去る。その姿は普通の人には見えず、連れ去られた者だけが感じ取り、祟りを畏れて『空神様』と敬った。
Encounter
人けのない野山や、いさかいの末に一人で家を出たような心の隙につけ込む。見えざる者がふと道連れに誘い、うなずいた者はそのまま空へと攫われる。神隠しのように数日姿を消し、思わぬ土地でひょっこり見つかることが多い。
Lore
伝承では、西牟婁郡岩田村の万蔵が妻と喧嘩して家を出た折、山伏のような者に乗って空へ消えた。三日後に家裏の笹原で見つかったが、西宮の酒席で飲んだこと以外は『空神様に叱られる』と語らず、以後は空を仰いで拝んだという。姿は他の誰にも見えなかった。
Traits
人ひとりを軽々と抱えて音もなく飛び、数日で数十里を隔てた土地へ運ぶ。連れ去った者には固く口止めし、破れば祟るとされる。姿を見せぬまま特定の者にだけ関わり続け、畏れと信仰の入り混じった存在として拝まれた。