気を吐いて蜃気楼を現す幻獣
蜃
蜃気楼 / 大蛤
水平線に城が建つ。金色の甍、朱塗りの楼閣、門を行き交う人影までも。だが舟を寄せれば、都はふっと霞に溶けて消える。あれは大蛤の見た夢か、龍の吐いた一息か——蜃気楼という美しい名だけを、あとに残して。
Overview
龍や蛟の類とされ、口から気を吐いて水辺に楼閣を出現させる幻獣。この楼閣が「蜃気楼」で、その名も蜃の気による楼に由来する。蛇に似た巨大な竜とする説と、傍らに巨大な蛤を配し蛤の吐く気とみる説の二つが伝わる。
Encounter
海辺や大河のほとり、春から初夏の暖かい日に、水平線の彼方へ城郭や楼台が忽然と立ちのぼる。近づいても届かず、やがて霞のように崩れて消える。人はそれを蜃の吐いた気の楼と呼び、水底や貝に潜む本体が姿を見せることはめったにない。
Lore
伝承。『本草綱目』は蜃を蛟の属とし、蛇に似た巨大な竜で角と紅の鬣を持ち、腰から下は逆さの鱗に覆われ、気を吐いて海市を成すと記す。『礼記』月令には雉が大水に入って蜃と化すとあり、のちに車螯(大蛤)の類とする説も生じた。『和漢三才図会』はこの両説を併記する。
Traits
深い水底や貝殻の奥にひそみ、腹の底から吐く気で虚空に楼閣・城市・行き交う人馬までも精緻に描き出す。その像は本物の都と見紛うほどで、見た者を惑わせる。脂を蝋燭に練り込んで灯せば、炎の先にも同じ幻の楼が浮かぶという。