夜道で顔を覆う布の妖怪
衾
ふすま
「刃は通らぬ。だが——黒く染めた歯なら、この夜を噛み破れる」
Overview
新潟県佐渡島などに伝わる、大きな風呂敷か衾(かけ布団)に似た布状の妖怪。夜道を行く者の頭上に不意に舞い降り、顔にかぶさって目・鼻・耳を一度にふさぐ。ただの布と侮るなかれ、容易には引き剥がせぬ難敵として恐れられた。
Encounter
人けのない夜の路上で、どこからともなく舞い落ちてくる。気づいたときには頭からすっぽりと覆われ、視界も息もふさがれて身動きが取れない。振りほどこうともがくほど、布はいっそう深く顔へ絡みついてくるという。
Lore
佐渡では、お歯黒(鉄漿)で染めた歯なら衾を噛み切れると伝え、そのため男でもお歯黒をつける習わしが明治頃まで残ったという。『綜合日本民俗語彙』は、一反木綿と並ぶ布状の怪として衾を挙げる。
Traits
薄く軽い体で夜気を漂い、獲物の顔をふさいで五感を奪い、窒息へ追い込もうとする。どんなに鋭い刃物でも断ち切れないが、お歯黒をつけた歯だけは通し、噛みつけば裂けて逃れられるという弱点を持つ。