小町の草紙洗に添う、化けた洗面具
角盥漱
つのはんぞう / 角盥
洗えば、偽りの墨は流れ落ちる。この盥は、小町が濡れ衣を雪いだ証しを、いまも湛えている。
Overview
鳥山石燕の『百器徒然袋』に描かれた器物の妖怪。宮中などで女性が用いた漆塗りの洗面具「角盥」が、長い年月を経て付喪神と化したもの。左右に張り出した柄が角に似ることが、その名の由来である。
Encounter
水をたたえた盥から柄が角のごとく突き立つ姿で、絵の中に描かれる。小野小町が草紙を洗ったという盥になぞらえられ、由緒ある器物として画題に選ばれた。
Lore
平安の歌人・小野小町が、大伴黒主の書き加えた盗作の文字を角盥の水で洗い流し、その罪を暴いたという「草紙洗」の逸話に基づく。この物語は能で小町を扱った「七小町」の一つとして知られ、石燕はその盥に古びた器物の霊威を見立てた。『百器徒然袋』は天明四年(1784年)刊。
Traits
使い古された洗面具が意思を得た付喪神で、水にまつわる由緒を負う。それ自体が人を襲うといった伝承は伝わらず、小町が偽りを洗い落とした器という故事を背に、静かに水を湛える姿として絵にとどめられている。