心の隙を突く、通りすがりの憑き物
通り物
刀を抜いたのは彼ではない。彼の心に、ほんの一瞬の隙があっただけだ。
Overview
江戸の随筆に記された憑き物の怪。ふと気を抜いてぼんやりした者に不意に取り憑き、その心を乱して乱心や発狂へと駆り立てる。通り悪魔・通り者とも呼ばれ、現代語「通り魔」の語源にあたるとされる。
Encounter
芝西久保あたりの町中や屋敷で、何気ない日常のふとした瞬間に立ち現れる。白い襦袢をまとい槍を振りかざす白髪の老人の姿、あるいは列をなす無数の甲冑武者として目撃された。油断した者ほど憑かれやすいという。
Lore
『世事百談』『古今雑談思出草紙』などの随筆が伝える。武士の川井は庭先に怪しい人影を見たが、心を静めるとこれは消えた。ところが同じ頃、隣家の主人は正気を失い、刀を抜いて振り回したという。
Traits
実体を持たず、人の心のわずかな隙間に忍び入る。憑かれた者は理由もなく突然錯乱し、刃物を振り回すなど狂気の振る舞いに走る。心を鎮め、平伏して動じぬ者にだけは手が出せず、気を静めることだけが唯一の防ぎとなる。