怨念が鉄牙と化し経を食い破る大鼠
鉄鼠
断食で果てた坊主の恨みが、なぜ鼠の歯を選んだか。——齧られた経文だけが、それを知っている。
Overview
平安の名僧・頼豪の怨念が化したという大鼠。園城寺(三井寺)の戒壇建立を朝廷に阻まれた無念から、頼豪は断食して果て、その恨みが石の体と鉄の牙を持つ無数の鼠となって、宿敵・延暦寺の経典や仏像を食い破ったと伝わる。鳥山石燕が妖怪画集『画図百鬼夜行』で「鉄鼠」と名づけた。
Encounter
現れるのは比叡山、頼豪が恨みを刻んだ天台の総本山である。白髪の老僧となって幼い皇子の枕辺に立つこともあれば、数を尽くした鼠の群れとなって山を駆け上ることもある。経蔵に忍び入っては尊い経巻を齧り、金銅の仏像の面までも削り取って、僧たちを震え上がらせたという。
Lore
承保元年、園城寺の頼豪は白河天皇の皇子誕生を祈って敦文親王を得たが、褒美に請うた戒壇の建立を、対立する延暦寺に阻まれた。無念のうちに断食して果てた頼豪の怨霊は皇子を呪い殺したと『平家物語』は語り、『太平記』はその恨みが八万四千の鉄鼠と化して比叡山を襲ったと記す。
Traits
石のごとき体と鉄の牙を備え、その数は八万四千に及ぶという。刃も通さぬ歯で、木簡も紙も、金銅の仏像すらも噛み砕く。一個の怨念から生じた大群でありながら、群れはただ宿敵の霊場のみを目指し、法燈を焼くかわりに経と仏を食い尽くすことで、頼豪は遺恨を晴らそうとする。