冬の夜の闇を叩く正体なき音

ばたばた

バタバタ / 破多破多(岩国での表記) / バタバタ石(広島城下) / 婆多婆多

ばたばた、ばたばた。凍てつく夜更け、誰かが闇の中で畳を叩いている。音を追って表へ出れば、もう音は向こうの辻で鳴っている。捕らえようとするほど遠ざかり、諦めればすぐ耳もとに戻ってくる。姿はどこにもない。ただ、この寒い晩に、たしかに何かが叩いているのだ。

ばたばたの立ち絵

危険度・希少度

D
戦闘力

直接人を害する力は伝えられていない。

D
敵対性

人への害意はなく、時に福さえもたらす。

B
稀少性

各地に類話はあるが、遭うには条件がいる。

概要

冬の寒い夜、畳や筵を叩くような激しい音だけを響かせる怪。姿は決して見えず、狐狸の仕業とも石の精の仕業ともいわれる。近畿・四国・中国地方に広く伝わり、和歌山では冬に限って現れ、山口県岩国では「破多破多」と書き表された。

出現

冬の寒い夜更け、家の外の闇から、渋紙を打つような、あるいは畳を杖で叩くような音が響いてくる。音は東から聞こえて西へ去り、家の前を通り過ぎるように近づいてはまた遠ざかる。音を確かめに出ても姿はなく、こちらかと思えばあちらに鳴り、正体をつかんだ者は誰もいない。

伝承

江戸後期の菅茶山『筆のすさび』が芸州広島の怪音「バタバタ」を記す。広島城下の六丁目には触ると痣ができる石の精の仕業とする「バタバタ石」の伝承があり、山口県岩国では文久年間に錦見の塩町周辺で夜通し鳴った怪音が「破多破多」として岩国藩士周尚剛の『岩邑怪談録』に収められた。近畿・四国・中国地方に広く類話が分布する。

特徴

姿を一切見せず、畳や筵を杖で叩くような、あるいは大きな団扇を激しくあおぐような音だけを立てる。冬の寒い夜に、それも霜柱の立つような晩に多く現れる。家の中では聞こえず二三町離れて響き、近づけば遠くへ、遠ざかれば近くへと、音の遠近が入れ替わって決して捉えられない。

ばたばたのカバー画像
芸州広島の辺にバタバタといふ異物あり。夜中屋上或は庭際に声ありてばたばたと聞ゆる故に名とす。たとへば畳を杖にて打音に似たり。

筆のすさび