山道で旅人を飢えさせる憑き物
ひだる神
ヒダル神 / 饑神(ひだるがみ) / ダリ(三重県宇治山田・和歌山県日高・高知県) / ダル(徳島県那賀郡・奈良県十津川地方) / ダラシ(北九州一帯)
峠の途中で、ふいに膝が笑う。腹の底が抜けたように空く。倒れる前に、握り飯を一口だけ残しておけ。食い尽くした弁当箱は、そのまま棺になる。
概要
山道を行く者に突然の激しい空腹をもたらす憑き物。餓鬼憑き・行逢神の一種とされ、憑かれると飢えと脱力でその場を動けなくなり、時に死に至る。餓死者や変死者の霊とされ、主に西日本、とりわけ熊野に多く伝わる。
出現
峠道や尾根道、川の境など、人けの少ない山中で不意に襲ってくる。とりわけ和歌山・熊野の大雲取、小雲取のあたりには餓鬼穴という深い穴があり、これを覗けば必ず憑かれたという。前ぶれもなく激しい空腹と飢餓感が湧き、手足が痺れて一歩も進めなくなる。
伝承
主に西日本に伝わり、北九州ではダラシ、和歌山県日高や高知ではダリ、奈良の十津川や徳島ではダルと呼び分けられる。菊岡沾涼の随筆『本朝俗諺志』(1746年跋)に熊野の餓鬼穴の説話が載る。博物学者・南方熊楠も那智山麓で憑かれた体験を書き残している。餓死者の霊とされる。
特徴
餓死して祀られぬまま山にとどまった霊で、姿は見えない。おのれが味わった飢えを、通りかかった者に丸ごと移して動けなくする。米一粒でも口に入れれば力が戻るのを嫌い、食のない旅人を狙う。掌に「米」の字を書いて舐める、木の葉を含むといった代用にも退くとされる。