人に憑いて病を呼ぶ犬の霊
インガメ
犬神 / イリガミ(種子島)
病がなかなか癒えぬ夜、家の者はそっと巫女を呼ぶ。祈りの声が朝も昼も晩も響くうち、床の病人はふと犬のように呻いた。――落ちてくれ、と祈る側の額にも、脂汗がにじむ。
概要
インガメは、屋久島で「犬神」がなまった呼び名。人に憑いて病気や不幸をもたらす犬の霊とされる。憑かれた者は胸や手足が痛み、犬のように吠えることもあるという。医者では治らず、落とすには巫女や祈祷師による一心不乱の祈祷が要る。憑き物筋の家が意図して人に憑けるとも語られる。
出現
家人が急に病づき、胸や手足を痛がって床に伏す。医者にかかっても一向によくならないとき、屋久島では「インガメが憑いたのではないか」「巫女に見てもらえ」と言われた。祈祷を頼めば、巫女は朝昼晩と一心に祈り、憑き物を落としにかかる。だが根深いものはなかなか落ちず、時には祈る側さえ命がけになったという。
伝承
インガメは犬神の方言呼称で、宮崎県・熊本県球磨郡・屋久島で用いられ、種子島では「イリガミ」とも呼ばれる。犬神信仰は島根から山口、九州全域、薩南諸島から沖縄まで広く分布する憑き物の一種で、狐憑き・狸憑きと同類とされる。憑くと病を呈するとされ、落とすには祈祷師や行者に頼るのが常だった。犬神をまつる家筋は縁組を通じて広がると信じられ、婚姻を忌避された歴史も伝わる。
特徴
目に見える姿はなく、人や牛馬、さらには無生物にまで憑くとされる。憑かれた者は胸の痛みや手足の痛みを訴え、急に肩をゆすったり犬のように吠えたりする。飢えさせた犬の首を切って呪具とし、その霊を意のままに操るという作り方の伝承も各地に残る。落とすには神棚や仏壇に憑き物を祀り替え、巫女が一心に祈るしかないとされた。