夜道を転がり来る手杵の怪
タテクリカエシ
タテクリカエシ / 立繰返し / 立繰り返し / 手杵返し
神であったころ、供物も名も、峠のだれもが忘れた。残ったのは転がることだけ。スットン、スットン——夜道の向こうから、まっすぐにしか進めぬ古い神が、今日も誰かの膝を狙って近づいてくる。
概要
タテクリカエシは、高知県幡多郡に伝わる妖怪。夜道を歩いていると、餅を搗く手杵のような形のものが道の向こうから「スットン、スットン」と音を立てて転がって来て、出会い頭に人間を引っくり返すという。猪と同じで急には方向転換ができない性質があるとされ、寸前で脇にそれて身をかわせば無事だとも語られる。
出現
あらわれるのは人けの絶えた夜道である。歩いていると、道の向こうからスットン、スットンと妙な音が近づいてくる。手杵のような形をしたものが転がって来ているのだと気づいた時にはもう間近で、まともに出会えば引っくり返されてしまう。逃げ道は一つ、ぶつかる直前に横へ跳んで、その勢いをやり過ごすことだという。
伝承
タテクリカエシは、柳田國男が主宰した妖怪語彙集『妖怪名彙』の一項として、中平悦麿が『民間伝承』四巻二号(一九三八年〈昭和十三年〉十一月)に高知県幡多郡の妖怪として報告したものが知られる。後年の妖怪書では新潟県の妖怪とされることが多いが、これは同誌への寄稿者の出身地に由来する誤伝で、本来は高知の妖怪だと指摘されている。
特徴
まっすぐ転がって人にぶつかることしかできず、猪のように急な方向転換ができない。ゆえに気づいて横へかわされると追ってこられない。同じ幡多郡には、雪の山道に片足だけの足跡を残す「手杵返し」や、河原で錫杖の音を立てて宙返りするものも伝わる。峠に祀られて忘れられた神が、こうして転がる怪となったのだとする見方もある。