夜道の人を喰う一つ目
ノウマ
野馬
石見の夜道は、いつも同じ闇のはずだった。その闇に、ひとつだけ白い目が開くまでは。二人連れは何も見ない。一人だけが、最後にその目を見る。
概要
ノウマは、島根県邑智郡日貫や石見地方に伝わる一つ目の妖怪。夜に一人で歩く人間を見つけると突然現れ、その人を食ってしまうという。漢字では「野馬」と書く。一つ目であること以外に姿を伝える資料はほとんどなく、たたらの神・金屋子神を恐れて逃げたという一話が、数少ない伝承として残る。
出現
石見の山あいの夜道に、供もなく歩く者があるとき現れる。前触れはなく、闇の底から「ニューッ」と身を差し出し、逃げる間も与えず人を食らうという。たたら場のように火と鉄の匂う場所にも寄るが、そこに金屋子神の気配があれば、姿を認めた途端に踵を返して消える。
伝承
主な記録は、竹本健夫「石見より(一)」(『民俗學』1巻4号、1929年)に載る島根県邑智郡日貫村の聞き書きで、一つ目で人を食う野馬と、たたらの神・金屋子神を見て逃げ去る話が伝えられている。日野巌・日野綏彦『日本妖怪変化語彙』にも項がある。資料は乏しく、姿の詳細は不明のままである。
特徴
闇に浮かぶ大きな一つ目のほかに、姿を見届けた者はいない。夜、連れのない人間だけを選んで前に立ちふさがり、抗う間を与えず丸ごと食らう。ただし、たたらに宿る女神・金屋子神の前ではまるで力が出ず、その姿を認めるや否や逃げ去る。人の火と鉄が守る場所だけが、この妖怪の届かぬ領域である。