伊雑宮に参る龍宮の使い
七本鮫
川をのぼる影を数えるな、と海女は言う。かつては七つ、今は六つ――ある年、人がその一つを銛で奪ったからだ。それが龍宮の使いとも知らずに。今年もまた、沖から静かに影が近づいてくる。
概要
七本鮫は、三重県志摩市磯部町の伊勢神宮別宮・伊雑宮に伝わる七匹の鮫。龍宮または伊雑宮の使いとされ、旧暦六月二十四日の御田植祭の頃、的矢湾から神路川を遡って境内の大御田橋まで参詣に来るという。川を遡るにつれ蟹や蛙の姿に変わるとも伝えられる、伊勢志摩の海の信仰を伝える存在である。
出現
現れるのは旧暦六月二十四日、伊雑宮の御田植祭前後とされる。的矢湾の沖に姿を見せた七本鮫は、神路川をさかのぼり、境内の大御田橋のたもとまで参詣に来るという。この時期、地元の海女や漁師は海に入ることを忌み、沖へ出れば七本鮫と行き会うといわれ、代わりに伊雑宮へ参詣する習わしが残る。
伝承
七本鮫の伝承は、三重県志摩市磯部町の伊勢神宮別宮・伊雑宮とその御田植祭(旧暦六月二十四日)にまつわる地域伝承として伝わる。鳥羽市坂手村に伝わる漁師・上村三蔵の逸話などとともに各種民俗資料・郷土誌に採録され、龍宮信仰やサメを神使とする伊勢志摩の漁労文化と結び付けて語られている。
特徴
海では鮫の姿をとるが、川をのぼり陸に近づくにつれて蟹や蛙へと姿を変えるという。もとは七匹そろって参詣していたが、帰り道で漁師の銛を受けて一匹が命を落として以来、六匹でしか現れなくなったと伝えられる。人を襲ったという話は残らず、もっぱら神へ詣でる使いとして静かに川をのぼる。