百年を経た器物に宿る精霊
付喪神
永年連れ添った道具ほど、捨てる夜は気をつけたほうがいい。積まれたがらくたの山が、月明かりの下でそっと目を開ける。
概要
長い年月を経た器物に精霊が宿り、化けて現れるとされる妖怪の総称。「つくも」は「九十九」を意味し、百年に一年足りぬほど古びた道具ほど霊性を帯びやすいという考えに基づく。
出現
長年使い込まれながら邪険に扱われ、感謝の言葉もないまま蔵の隅や辻に打ち捨てられた古道具の山に紛れて潜んでいる。日頃はただの傘や鍋の姿だが、恨みが積もり切ったとき、その中の一つがふと身じろぎを見せる。
伝承
この考え方をまとめた絵巻物が室町時代の『付喪神絵巻』で、器物は百年の歳月を経ると精霊を宿し人の心を惑わすと説く。打ち捨てられた道具たちが節分の夜に一揆を起こし、最後は仏道に帰依して鎮まる筋を描く。現存最古は十六世紀の崇福寺本で、公家の日記『実隆公記』文明十七年(1485年)の記事にも先行する絵巻の存在がうかがえる。
特徴
群れをなして徘徊し、通りかかる人を化かして正気を奪う一方、僧の法力や護法童子には抗えない。調伏されるとやがて自らの行いを悔い、山にこもって修行に励み、最後は成仏するとも伝わる。百年に満たぬ道具にはこの力は宿らないとされる。
器物百年を経て、化して精霊を得てより、人の心を誑かす、これを付喪神と号すと云へり
付喪神絵巻