龍へ至る、九千年がかりの法螺貝
出世螺
貝であることをやめた日から、山も里も海も、ただの通り道になった。
概要
山、里、海でそれぞれ三千年を経て龍になるという巨大な法螺貝。肉を食べると長生きするという。
出現
山中の土中深くに長い年月をひそみ、時が満ちるたびに棲み処を移していく。地上に抜け出た跡は「出世の穴」と呼ばれ、静岡県沼津や遠州今切の渡しなどがその跡地と伝わる。本体を見た者はほとんどおらず、竹垣のあたりに立ちのぼる白気や、晴天なのに濡れた石ころが、近くにその気配が潜む数少ない手がかりになるという。
伝承
深山に棲む法螺貝が山・里・海でそれぞれ三千年、あわせて九千年を経て龍に化身するという話は、天保12年(1841年)刊の奇談集『絵本百物語』に「出世螺」として収録される。同時代の医師・武井周作の『魚鑑』(天保2年刊)にも、地中の巨大な法螺貝が山崩れとともに地上へ抜け出るという類話が記されている。
特徴
その肉には長寿の効能があるとされ、山伏が吹く法螺貝もこの一族の末裔と目される、法螺貝の中でも別格の存在である。仲間には蛟(みずち)やトカゲに姿を変えるものもおり、白気を吹き上げては晴天の石を涙のように濡らすなど、目に見えぬ気配だけで小さな異変を残していく。