粗末な履物が夜ごと歌う付喪神
化け草履
履き潰して顧みなかった一足が、闇の中で歌い出す。「カラリン、コロリン」――その声を数えた者だけが、土間の隅にうずくまる小さな影の正体を知る。
概要
粗末に扱われた履物の付喪神。夜中に歌いながら動き回る。「カラリン、コロリン、まなぐ三つ」と歌う。
出現
夜、履物を顧みずに放っておく家に忍び込むという。留守番をしていた奉公人が一人でいると、どこからともなく「カラリン、コロリン、カンコロリン、まなぐ三ん、歯二ん枚」という歌声が届く。同じ刻限に幾晩も続くため、恐る恐る戸の隙間から覗いてみると、歌いながら物置の隅へ這い戻っていくのは、日頃邪険にされていた古い草履だったという。
伝承
この歌う履物の話は、佐々木喜善が東北地方の昔話・俗信を集めた『聴耳草紙』に「履物の化物」として収められている。恐れをなした主人が奉公人と共に待ち伏せて確かめた末、正体を見届けたと語られる一編で、歌に出てくる履物は草履ではなく下駄を指していたとする説もある。
特徴
履物として長く使われながら顧みられずにいると、次第に魂を宿して化けるという。夜になると自ら動き出し、独特の節回しで歌いながら家の中を這い回る。人前に姿を見せることはまれで、正体を見極めようとする気配を察するとすぐさま姿をくらましてしまう気弱な一面も持つ。