縄で躍らされる鞠のいたずら怪異
千々古
宙に舞い、地に落ち、また舞う。誰の目にも妖怪と映ったその踊りは、両端の縄を引く者たちだけが知る、ただの悪ふざけだった。
概要
空中を飛び回る。正体は中に鈴を入れた鞠を縄で操ったいたずら。
出現
城下町では、夜になると大手御門のあたりに奇妙な音を立てて何かが現れるとの噂が立ち、通行人はその一帯を避けて遠回りするようになった。噂を聞きつけた小河多助という若侍が、正体を見届けようと夜の見張りに立ったところ、噂どおりに鞠のようなものが現れ、宙に浮いては地に落ち、東西へ飛びまわった。
伝承
これは江戸時代の怪談本『太平百物語』(享保17年・1732年刊)巻二に「千々古」として記された話である。多助が飛び上がった瞬間を狙って斬りつけると、正体は鈴を入れた鞠で、その両端には縄が結ばれていた。いたずら者が両側から縄を引いて鞠を宙に躍らせ、妖怪と見せかけていたことが明らかになった。
特徴
宙に上がったかと思えば地に落ち、休むことなく東西へ飛び回りながら音を立てる。上下左右に予測のつかない動きを見せ、正体を見極めようとする者を翻弄するが、刃を受けると途端に落下しておとなしくなる。捕らえてみれば鈴入りの鞠と縄という、拍子抜けするほど他愛のない仕掛けだった。