節分の夜、首なし馬を駆る一つ目鬼
夜行さん
蹄の音に首はない。それでも、道を塞ぐ気配だけは本物だ――草履を忘れず頭に乗せておけ。
概要
阿波国(現・徳島県)に伝わる、髭を蓄え全身に毛が生えた一つ目の鬼。節分や大晦日など「夜行日」と呼ばれる夜に、首のない馬に乗って里を巡るという。
出現
出会うのは、人が寝静まった夜行日の道である。三好郡山城谷(現・三好市)では鬼そのものが単独で徘徊するとも伝えられ、行き合った者は投げ飛ばされたり、馬の脚に蹴られたりする。とっさに草履を頭に乗せて地に伏せれば、やり過ごせるという。
伝承
「夜行」とは元来、祭礼の折に一般の人には見せない深夜の神の渡御を指す言葉で、節分や大晦日、庚申といった夜行日は、その神事に伴う物忌みの時期にあたった。物忌みを破った者への祟りが、いつしか一つ目の鬼への恐怖へと転じたと説かれる。平安期の類書『拾芥抄』は、百鬼夜行の出現する日を干支で定めており、こうした忌み日の観念が夜行さんの背景にある。高知県越知町では「ヤギョー」、東京都八王子市では首なし馬に乗る姫君の姿でと、地域ごとに異なる姿で語り継がれてきた。
特徴
首なし馬に鬼が乗って現れることもあれば、馬だけが独立した妖怪として道に現れることもある。積極的に人を探し回るわけではなく、あくまで禁忌の夜に出歩く者を罰する存在とされ、正しい作法さえ知っていれば危害を免れるという、いわば戒めの化物である。