子を攫うと恐れられた、夜道の忍び姿
夜道怪
大荷物を背負い、垢じみた身なりで夕暮れの辻に立つ者――それは高野聖か、夜道怪か。宿を貸せば、娘を攫われるやもしれぬ。
概要
埼玉県秩父・比企地方に伝わる、子取りの名人とされる怪。その正体は、諸国をめぐり歩いた高野聖の零落した姿が伝説化したものと考えられている。
出現
子供が独りで出歩いて行方が知れなくなると、比企郡小川町大塚などでは「夜道怪に捕らえられた」といい、秩父郡では「隠れ座頭に連れて行かれた」ともいわれた。大きな荷物を背負い、乱れた髪に垢じみた身なりで夕暮れの辻に立つ者を「まるで夜道怪のようだ」と評したという。
伝承
夜道怪の正体について、柳田國男は『山の人生』の中で、弘法大師信仰を広めるため諸国を巡り歩いた高野聖の姿が伝説化したものと説いた。高野聖は行商を兼ね、夕方になると村の辻で宿を乞い「ヤドウカ」と大声でわめいたため、次第に法力を笠に着て人々を脅すようになり、「高野聖に宿貸すな、娘取られて後で恥かくな」という諺まで生まれたという。
特徴
実体は妖怪ではなく人間だが、次第に善人を脅す存在へと成り下がったとされ、宿を貸さない家の娘を攫うと噂されたことから、いつしか子取りそのものを行う怪異として恐れられるようになった。後年は東京でも、人さらいを指す言葉として用いられたという。
ヤドウカ
柳田國男『山の人生』