家を焼く、空から落ちる怪火
天火
テンカ / テンビ / テンピ
夕闇の空を、ひとつの火の玉がゆるやかに落ちてくる。地を転がり、戸口の隙間をうかがうその火に、雪駄を脱いでひと仰ぎ——さもなくば、朝には家が灰になっている。
概要
肥前地方に伝わる怪火。空から火の玉となって落ち、地を転がって人家に入り込み、火災を引き起こすとされる。放っておけば家を焼き尽くすが、雪駄で仰いだり念仏を唱えたりすれば退散すると伝わる。入り込まれた家には病人が出るともいわれ、九州各地で凶事を告げる火として恐れられた。
出現
現れるのは、天から火球が音もなく降りてくるとき。地を転がりながら家々をうかがい、隙あらば軒下や戸口から屋内へ入り込もうとする。佐賀県東松浦郡では、天火が出ると天候が回復する一方、入り込まれた家には病人が出るといい、人々は鉦を打ち鳴らして追い立てたという。
伝承
松浦静山の随筆『甲子夜話』などに、肥前で天火が現れた際に念仏を唱えながら追い払ったという口碑が記録される。地元では雪駄で仰いで払う作法も伝わるが、仰ぎ払った火が隣家に燃え移って争いになった例も語られた。熊本県天草には、余所者を邪険にした報いに怪火が繰り返し現れ、ついに村を焼き滅ぼしたという祟りの話も結び付けられている。
特徴
正体は空から降る一個の火の玉で、明確な意思を持つかのように人家をめざして地を這う。屋内に入り込めば火災を招き、住人に病をもたらすとされる。物の怪ながら念仏や鉦の音、雪駄のひと仰ぎで容易に退くほど、正面から人を襲う力は弱く、むしろ人の隙をついて災いを持ち込む厄火である。