深山で石を降らせる、姿なき天狗の礫
天狗礫
天狗礫 / てんぐつぶて / 天狗つぶて
谷の底で、ふいに風が唸る。山鳴りが返ってきたと思った次の刹那、頭上を岩が飛び交う。姿は、ない。ただ深山に踏み込んだ咎だと悟り、猟師は獲物も忘れて這うように山を下る。
概要
深山幽谷で、どこからともなく石や砂利、時には岩までが飛んでくる怪異。魔風が起こり、山が鳴り谷がこたえて大石が舞う。この石に当たると病気になり、以後は獲物がまったく捕れなくなるという。
出現
山深く分け入った者を、左右から降る小石が不意に襲う。豊後国杵築では、山道で石が落ちてきたのを見た心得のある者が『しゃがめ』と命じると、頭上を大きな石が飛び交い、一同を震え上がらせたと伝わる。
伝承
鳥山石燕は『今昔画図続百鬼』にこれを描き、深山で魔風が起こって大石が飛ぶ怪と記した。市中で礫が飛ぶのは狐狸の仕業として『そら礫』と呼び、山中で石の降るのを天狗の仕業として天狗礫と区別する。山に穢れを持ち込む者への怒りともいわれる。
特徴
姿はけっして見せず、深山に踏み込んだ者へ石や岩を降らせる。狩人がこれに遭うと、その日は一日彷徨っても何ひとつ獲物を得られない。山を侵す人間への警告として、天狗が投げつけるものと恐れられた。
深山幽谷の中にて一陣の魔風おこり、山鳴、谷こたえて、大石をとばすことあり。これを天狗礫となづく
鳥山石燕『今昔画図続百鬼』