姿なき天井の音の怪
小豆はかり
しょきしょき、ぱらぱら、ざあっ。天井板一枚を隔てて、誰かが夜通し豆を量りつづけている。朝になって梯子をかけ、覗き込んでみても、埃ひとつ落ちてはいない。音だけが、確かにそこにいた。
概要
江戸・麻布の屋敷に出たという、音だけの怪異。天井裏で小豆をまくような音を立てて、姿はけっして見せない。怪談集『怪談老の杖』に記され、西洋のポルターガイストになぞらえられることもある、聴覚に取り憑くたぐいの怪である。
出現
夜、部屋で休んでいると、まず天井裏を誰かが歩くような音が響く。やがて小豆をぱらぱらとまく音が加わり、次第に高まって、一石もの豆を頭上へぶちまけたような轟音になる。障子を開けても、天井を覗いても、そこには何もいない。
伝承
麻布のある家に怪異が出ると聞いた男が、肝試しにと友人宅へ泊まった。夜更け、噂どおりに頭上で音が起こり、轟くほどに高まってはまた静まっていった。翌朝、家じゅうを探しても物の落ちた跡はどこにもなく、その正体はついに知れなかったという。
特徴
終始その身を見せず、音だけで人を惑わす。土くれや紙屑を落とすことはあっても、人を傷つけることはまずない。害そのものより、姿なきものが夜通し立てつづける音の不気味さこそが恐ろしい、聴覚の怪である。