山に潜み、油を嘗める憑き物
山オサキ
「油揚げを持ってこい」——山の天狗岩で目を覚ました老婆の口から漏れるのは、いつも同じ言葉。買ったはずの油は、どこへ消えたのか。尾の裂けた小さな影が、灰白の毛をひるがえして岩陰へ滑り込む。憑かれた者はただ油を嘗め、里の人はその家の前を、足早に走り抜ける。
概要
関東北部で恐れられた憑き物オサキのうち、山に棲むもの。里のオサキと違い「山オサキは憑かない」とされたが、まれに人へ取り憑いた話も残る。鼠に似た小獣とも、油揚げを好むオサキ狐ともいわれる。
出現
取り憑かれるのは、決まった人であることが多い。ある村では、火傷の薬にする油を買いに出た老婆が戻らず、山中の天狗岩で眠り込んでいるところを見つかった。助け起こすと、老婆は油瓶と油揚げをここへ持って来いと口走ったという。
伝承
「里のオサキは憑くが、山オサキは憑かぬ」と土地では言い習わす。それでも天狗岩の老婆の油瓶は中身がすっかり空になっており、村人は山オサキの仕業と噂した。この老婆は憑かれるたび油を嘗め、油揚げを欲しがってわめいたと伝わる。
特徴
取り憑いた者に油を嘗めさせ、油揚げをしきりに求めさせる。姿は鼠ほどの小さな獣とも、尾の裂けた狐ともいわれる。オサキを飼うとされる家は「オサキモチ」と呼ばれて縁組を避けられるなど、憑き物筋として長く忌み恐れられた。