行き会うと病を呼ぶ、風となった亡霊
山ミサキ
山道を行く者の背を、ふいに湿った風がかすめる。何も見えず、何も起きない——その晩、体が燃えるように熱くなるまでは。落葉の上を、生首がころりころりと車のように転がってゆく土地もあるという。会ってはならぬ。会ったと気づくころには、もう遅い。
概要
西日本に広く分布する憑き物ミサキのうち、山にあるもの。成仏できずに行き場を失い、風となって山をさまよう亡霊とされる。姿を見せぬまま、行きあたった人をにわかに病ませる、危険な憑き物として恐れられた。
出現
山口県萩市の相島では、山道でこの風に行きあたると病になるといい、徳島県三好では川で急に疲れを覚えるのを憑かれたしるしとした。ふだんは姿を現さず、人が病んではじめて「そういえば山で……」と憑かれたことに気づくのである。
伝承
土地によって語りは大きく異なる。ある村では成仏できぬ亡霊が風になったものとし、別の村では川ミサキが山へ入って山ミサキとなり、鳥のように空を飛ぶ神になるという。川で死んだ者の霊が川ミサキになるとも伝わり、ミサキ信仰は姿を変えて各地に根づいている。
特徴
常は目に見えず、人に取り憑いて高熱や病をもたらす。山口県豊浦郡の深山では、人の生首の形をとった山ミサキが落葉の上を車のように転がり、また飛ぶという珍しい姿でも語られる。ミサキの類はいずれも、かなり危険な憑き物とされる。