楠の精にして、化け物どもの盗賊の首領
山彦
やまびこ / 安倍山の山彦
「宝は富める者の蔵にこそ集まる。ならば化け物とて、盗みに理はあろう」。古寺に巣くう楠の精は、手下を率いて夜ごと押し込む。だが奪った白狐の玉こそが、やがて我が身の破滅を呼び寄せるとは、この盗賊も知らなかった。
概要
山彦は、十返舎一九作・歌川国芳画の合巻『化皮太鼓伝』に登場する妖怪。数千年を経た楠の精で、黒い毛に覆われた熊のような巨体をもち、頭には角とも瘤ともつかぬものを戴く。荒れ果てた古寺を根城に大勢の手下を従え、富貴な化け物の家々を襲って財宝を奪う盗賊の首領として描かれる。
出現
安倍山の奥、荒れ果てて無人となった古寺——そこが山彦の根城である。夜ともなれば配下の化け物どもが方々の富貴な妖怪の屋敷へ押し入り、金銀財宝を奪って山へ運び込む。ある夜、狐の家宝「白狐の玉」までもが奪われ、これを取り返さんと、義の妖怪が単身この山へ乗り込んでいく。
伝承
『化皮太鼓伝』は天保4年(1833年)刊の合巻で、題名は『水滸伝』のもじり。化け物の世界で繰り広げられる活劇物語の悪役として、楠の古木の精が盗賊の頭目に仕立てられている。山にこだまする声の精霊という古来の発想を、戯作の中で人間さながらの盗賊へと読み替えた造形である。
特徴
楠の古木の精だけあって膂力は凄まじく、追い詰められると近くの大木を根元から引き抜き、棒のように振るって戦う。見越入道に挑まれた際は大木で鉄棒と渡り合うが力及ばず降参し、のちに狒々との連合軍を組むも、狐火の酒に痺れ薬を盛られて総崩れ、みずからは猪に乗って命からがら山へ逃げ帰った。